小沢健二さん(オザケン)の「流動体について」が良い曲だったので、歌詞を考察・解釈してみます。
「もしも、過去に違う選択をしていたなら、どんな人生になっていたのか?」
そんなことを考えられる一曲。
目次
小沢健二「流動体について」の歌詞考察・解釈
小沢健二さんの「流動体について」の歌詞考察・解釈です。
「もしも」と「平行世界」
「もしも」と「平行世界」がこの曲のテーマ。
- もしも今の人生じゃなかったら?
- 平行世界の僕はどう暮らしていたのか?
- 違う家庭を持っていて「子どもたち」も違う子どもか?
ということが曲の中で何度も触れられています。
舞台設定としては、アメリカNYから東京に来た飛行機の中から始まります。
英語ではなく日本語を(久々に)聞いたということが「東京につくことが告げられる」という歌詞から分かります。
羽田空港に降り立った「僕」には家族がいることがわかります「僕たち」という表現あり)。
夕暮れ時、移動する車の中で、パラレルワールドの妄想が始まります。
もしも間違いに気がつくことがなかったのなら
並行する世界の僕は
どこらへんで暮らしているのかな引用元:流動体について
つまり、
- 今の自分の人生(間違いに気づいた人生)
- 平行世界の人生(間違いに気づかない人生)
の2つの世界を想像しているということ。
後者についてオザケンは「間違いを認めてるフレーズ」と言っています。
小沢健二
「もしも間違いに気がつくことがなかったのなら」って傲慢なようですが、実は間違いを認めてるフレーズでもあって引用元:ナタリー
「間違い」の方の人生を否定はしていない。
ではそもそも「間違い」って何なのか?
歌詞の続きを読んでみます。
「間違い」とは、今の奥さんではない「君」と結ばれること
「間違い」とは、今の奥さんではない「君」と結ばれることかなと思います。
君の部屋の下通る
映画的 詩的に 感情が振り子を降る(中略)
子供たちも違う子たちか
(中略)
彗星のように昇り 起きている君の部屋までも届く
引用元:流動体について
ここで出ている「君」とは、昔の恋人。
あるいは、イマジナリーな「運命の人」のことかな、と。
「君(別の恋人)と結ばれていたら、今の子供たちとは違う子供たちで、違う人生だったんだろうな」
そんな想像を車で移動しながらしていたのだと思います。
人生の無限の可能性と怖さ
そんな風に「君と結ばれた人生」の可能性を考慮すると、他にも
- 君以外の更に別の人と結ばれた人生
- ひとりきりで生きる人生
もありになります。
また、今の仕事とは違う仕事をやっていた人生も考えられる。
つまり「人生の無限の可能性があるよな」という意識。
このことを「無限の海」と表現していますね。
そして、無限の海と一緒に出てくるのが「怖さ」という単語。
これは「今よりも良いものがあったのではないか?」という恐怖のことだと思います。
無限の海は広く深く でもそれほどの怖さはない
人気のない路地に確かな約束が見えるよ引用元:流動体について
何故「怖さ」はないのか?あるいは無くなったのか?
もう少し考えてみます↓
流動体についての抽象表現と具体表現の面白さ
「抽象」「具体」表現の面白さについて
カルピスの甘さ(濃さ)と運命論
オザケンの曲は、非常に日常的な表現が多いです。
今回の歌詞の中でも
- 羽田沖
- 港区
- カルピス
といった日常の固有名詞が目立ちます。
注目すべきは「カルピス」ですね。
ほの甘いカルピスの味が 現状を問いかける
引用元:流動体について
ここで言っている「カルピス」は、缶ジュースやペットボトルのカルピスウォーターではないと思います。
原液の方のカルピス。
甘さ(濃さ)を自分で調整できるやつ(昭和世代にしかわからないかも)。
で、このカルピスは子供の頃の味であり、昔の自分を想起させている。
あと、カルピスの濃さって生まれ持った家庭で決まりますよね(薄く飲むのか、濃く飲むのか)。
ではそれって、
- 自分の選択なのか?
- あるいは神が与えた運命なのか?
というところにつながっていきます。
人生は無限の可能性(平行世界)がある。
しかし、神が決めた運命の世界しかないのでは?という葛藤です。
結局、流動体のように全てがつながっている
歌手であるオザケンはその歌&言葉で日本に影響を及ぼしました。
それ故に出たのがこの歌詞かなと思います↓
そして意思は言葉を変え
言葉は都市を変えてゆく
躍動する流動体引用元:流動体について
「小さな個人の選択(意思)が、世界(都市)の変化につながっている」ということ。
過去から未来に、全てがまるで「流動体」のように繋がっていく、流れていく。
その変化の流動性についての確信があるのです。
神の手の中にあるのなら、宇宙の中で良いことを決意するしかない
そして曲は最期に「神の手の中にあるのなら、宇宙の中で良いことを決意するしかない」という結論にたどり着きます。
ありえた無限の平行世界の海を、想像することは出来る。
しかし、カルピスの甘さに象徴される「定められた神の運命」も感じる。
※「君」と暮らしていないのも、そういう大きな枠組みかもしれない
そんな中で出来ることは、その時々で「宇宙の中で良いことを選ぶ」ことだけだ。
そして、それは流動体のように世界と未来に繋がっていく。
あるいは「君」のいるところまでも。
躍動する流動体 数学的 美的に炸裂する蜃気楼
彗星のように昇り 起きている君の部屋までも届く引用元:流動体について
それゆえに歌詞が示す通り
無限の海は広く深く
でもそれほどの怖さはない
宇宙の中で良いことを
決意するときに引用元:流動体について
「怖さはない」という帰結になるのかな、と思いました。
まとめ:流動体についての感想
平行世界を考えるということは「ありえた理想の人生」を考えることでもあります。
多くの創作、フィクションは「もしもこんな世界なら」を容易に妄想させてくれます。
この曲の中でも、「もしも」から始まるサビ部分は、非常に陽気で楽しい感じがします。
しかし結局、今の自分に出来るのは、流動体の様に流れる人生で「良いこと」を選択することだけです。
ちょっとした妄想へのトリップと、現実への着地が見事な一曲。
まるで、物語世界に迷い込んだような体験ができて、満足でした。
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