映画「ファーストマン」のネタバレ感想です。
監督はセッション、ラ・ラ・ランドのデイミアン・チャゼル。
「人類初の月面着陸」を描いたドキュメンタリ作品でして、ファーストマンとはアポロ11号の船長「ニール・アームストロング」のことです。
この映画の
- 優れたリアリティ演出
- 月の意味。隠された意図
- 主人公ニールと妻の関係
などについて考察していきます。
目次
ファーストマンとは?どんな内容?あらすじ?【1分で分かる】
ファーストマンとは、どんな内容(あらすじ)か、簡単にまとめました。
※知っている方は飛ばしてください
ファーストマンの作品概要
- 【公開】2019年(アメリカ)
- 【原作】ジェームズ・R・ハンセン「ファーストマン」
- 【監督】デイミアン・チャゼル
- 【主演】ライアン・ゴズリング(ララランドの主演男優)
ファーストマンの簡単な内容まとめ(あらすじ)
ファーストマンはアポロ11号の船長「ニール・アームストロング」が月面着陸したという史実を元にした映画です。
彼が月面に着陸するまでの話を、主人公ニールの主観で描く作品になっています。
史実なのでネタバレしても平気だと思いますが、物語の流れとしては
- 主人公ニールは民間企業で飛行試験パイロットだった
- ニールは、娘のカレンを亡くす
- NASAのジェミニ計画の宇宙飛行士に応募
- 宇宙飛行士の試験や、ジェミニ8号の試乗を経て、信頼を得るニール
- アポロ11号の飛行士になり、月面着陸する
という感じ。
フィクションとドキュメンタリの間で
このドキュメンタリを、作品たらしめるのが、主人公ニールの「月での行動」です。
- ニールは月に行った時に、どんな個人的な物を持っていったか不明
- 月に着陸後、ニールは「イースト・クレーター」で10分間一人で過ごしていた
ニールは寡黙な人間で、自分のことを周囲に語らなかったそうです。
彼は月に到着後、一人で何をしていたのか?
彼の半生を映画という形で擬似的に追うことで、一つの回答が示されます。
ファーストマンのネタバレ感想と考察と個人的評価
ファーストマンのネタバレあり感想&考察です。
最低限の映画リテラシーを求める作り
最低限の映画リテラシーを求める作りだな、と冒頭から感じました。
物語最初の展開が、あまりにも言葉が少なかったです。
- 空軍の新型機はコントロールを失って、あわや死亡という状況
- 娘のカレンは病気を患い、余命いくばくか
- 治療したが、カレンは死亡し、埋葬される
ということが、説明が無いまま「絵だけ」で表現されていきます。
そもそも月は「死」のメタファー
そもそも、月は「死」のメタファーというのが、この作品を読み解く上では重要なポイントだと思います。
※その説明すらもないまま、物語は進みます。
物語前半で、娘のカレンは死んで、棺に入れられます。
この時、ニールは空の「月」を見上げます。
あえて言語化するのであれば、
- カレンは死んで、月(向こう側)へ行ってしまった
- 月という死の象徴が、カレンを死へと導いた
などと捉えられますね。
いずれにせよ、この作品では何度も
- 月を見上げるニール
- 浩然と輝く月
というカットが説明もなく入ります。
カレンの棺と、ニールの宇宙船
物語最後に、ニールは宇宙船に乗って、月に向かいます。
これも、ある種の対比構造と捉えることも出来ます。
つまり
- カレンは棺に入って、死の国にたどり着く
- ニールは宇宙船に入って、月にたどり着く
ということ。
主人公ニールの感情表現
主人公ニールの感情表現は少なかったです。
少なくとも彼は他人に対しては、自身の精神状況については語っていません
- 死に直面した事故にあっても妻に語らない
- 娘がいたこと、死んだことを仲がよい友人にも言わない
- 最後に息子たちに言葉をかけずに旅立とうとする
などなど。
一方で、同僚の死(アポロ1号の爆発)を電話で知って、持っていたグラスをつい割ってしまうシーンもありました。
ここから分かるのは「感情はあるが、人には見せない」ということ。
宇宙飛行士という職業柄、感情をコントロールすることに長けているだけなんですね。
妻の気持ちも切ない(鏡越しの距離)
妻(ジャネット・アームストロング)の気持ちも切ないよなー、というのが本作を見て思ったところです。
ニールが月に行くために、家を出る日の夜のことが印象的でした。
穿った見方かもしれませんが、「息子たちに声をかけて」というのは、「私にもなにか言ってよ」という意味だったのかな、と思いました。
また、中盤に彼の心がわからない時に、二人の距離が描かれている時に出ていた「窓」も印象的。
同様に、最後に月から帰ってきたニールは、ジャネットと鏡越しの再会を果たします。
この鏡も、2人の心の距離のメタファーということ。
現実の世界の住人と、月の世界の住人
月は「死」のメタファーでもあり、現実(こちら側)と遠い距離にある「あちら側」の表現でもあるよな、と思いました。
ニールの心は常に「月」にありました。
多くの人が生きている現実には、もはや生きていないニール。
そして、最後に月に行って、完全にあちら側の人間になってしまったとも考えられます。
ちなみに、史実(映画のその後)ではニールとジャネットは、離婚しています。
ファーストマンのリアリティ演出
ファーストマンのリアリティ演出が特徴的でした。
物語冒頭から極力BGMを使わない作りでしたね。
飛行船、宇宙船という密室。
ニール主観のカメラワークと、リアリティをもたらす摩擦音や雑音。
一方で、リアリティがある演出が土台としてあったからこそ、最後の月のシーンのコントラストが映えたなーとも。
途中までは、音(BGM)を明らかに抑えていましたし、1960年台を表現するためにカメラの画質も低めです。
それ故に、最後に月に行ったときの
- 圧倒的な高画質と画面いっぱいの月の描写
- 壮大に盛り上げるクラシック音楽
に心が揺さぶられます。
デイミアン・チャゼルは流石だなー!
デイミアン・チャゼルは流石だなー!と思う演出が他にもありました。
例えば、ジェミニ8号での事故に関して言うと、乗る前から
- 何故か船内にハエが飛んでいる
- ネジのパーツがおかしい(ナイフある?という質問)
という描写を挟むことで、「絶対なにか起こるだろう」と不安になります。
こういう、控えめなサスペンス演出が渋いです。
あとは、「危機感の度合い」とその「解決状態」を分からせるために、ピンチの時に「船内の数値(角度や速度)」を写していましたね。
こうすることで、この数字が反転したら(減ったら)セーフなんだ、とシンプルに観客に伝えることが出来ます。
最後のクライマックスの月着陸のところも同様。
「着陸できるか分からない!」という緊張を伝えるのに、普通はキャストの芝居と説明を使います。
しかし、淡々と「燃料があとどれくらい残っているか」を描くことで表現していました。
ファーストマンを面白く見る方法(補足)
ファーストマンを面白く見る方法ですが、解説本(メイキング本)のクオリティが非常に高いので、オススメです。
原作を読むのもオススメ(文庫本の方が安いです)
あとは監督チャゼルと主演ライアンのインタビューも見てみると良いですよー
お2人がこの作品について初めて話したとき、デイミアン監督は『ミッション遂行の映画』と、一方ライアンさんは『喪失の物語』と解釈していたそうですね。
ライアン「この主題の語り方は何通りもあると感じました。リサーチの段階では、この要素はデイミアンのヴィジョンにも合うだろうか、使えるだろうかと考えるのが面白かった。ニール・アームストロングの物語には、役者としても、家族の父親としてもとても感動させられました。
── 月面に立ったニールには「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍である」という有名な一節がありますが、なぜそう言ったのだと思いますか?
ライアン「なぜニールがそう言ったのか、知ったかぶりをするつもりはないんです(笑)。彼は、物事をミクロとマクロの両視点から捉えられるという、とんでもない能力の持ち主でした。だから彼にとっては、偉大なる飛躍にも小さな一歩にも感じられた。自分は祖国と人類、両方を代表する立場であると感じられたんでしょう。聞いたところによると、彼も月に着陸してはじめてあの言葉が浮かんだんですって。面白いなと思うのは、とりわけ彼とは無関係な言葉でありながらも、同時に彼らしさがよく現れているところですね。」
多くの映画人が宇宙を描いてきたわけですから、さらにプラスアルファとして、そこに僕が新しいものを付け加えられないか。
貢献できないかと考えました。 そこで、“没入”ということが差別化につながらないかと思いついたんです。真の没入型の映画を作りたいと。