ガッシュ作者(雷句誠)のベクターボール1巻~5巻の感想。打ち切りだけど楽しめた

「金色のガッシュ」作者の雷句誠さんが描いた「VECTOR BALL(ベクターボール)」1巻から5巻の感想です。
この漫画、5冊で打ち切りで終わってしまったことで有名です。

打ち切りだけど、熱い少年漫画&ギャグ漫画として結構楽しめたので、感想・レビュー書きます。

VECTOR BALLのあらすじ

あらすじはこんな感じ。

「お前、何者?」
学校は、人知れず死にかけていた。
平穏な日常の裏で進行する、謎の生物たちによる“侵略”。
米炊おかかは、その異変を解決したいと思っていた。
群青新太は、ただ一人、侵略を食い止めようとしていた。
“戦う意思”を持つ二人の出会いが、全ての始まり。
新時代を創る“絆”の学園ファンタジー、堂々開幕!!

まあ、ここまではまったく問題ないというか、王道の学園ファンタジーの導入ですね。
ガッシュを彷彿とさせる「絆」というテーマ。
それを雷句さんが扱うのだから、面白くないわけがない。

 

VECTOR BALLの面白いところ

VECTOR BALLの面白いところは

  • 3Dプリンター的な能力で何でも創れる(魔法に対して科学で対抗する感じ)
  • ガッシュよろしくの熱い展開
  • 書くのが難しい集団戦を描く力

の3点です。

 

米炊おかかとヴェクターの3Dプリンター的な力

主人公の米炊おかかは、謎のエネルギー体ヴェクター(JOJOのスタンドみたいなもん)の力で、あらゆる素材を好きな形に変えることができます。
これによって、「弱い素材(ゴムとか、木とか)」を使って、強い敵を物理的に倒します。
この発想は今までのバトル漫画では無かった。

 

欲を言えば、前半はもっと弱い素材を中心に戦って、後半強い素材を手に入れるみたいなRPG感があったら良かったかもしれない。
ただ、「主人公(+ヴェクター)」だけでは戦えず仲間が必要、という設定は流石だなと思いました。
※主人公たちは素材を作ることはできないので、仲間が素材を作る(仲間がバトルごとに変化する)

 

ガッシュよろしくの熱い展開。ロゥダーも良いキャラ

ガッシュでもベクターボールでも「熱い展開」をかかせたら、この作者に並ぶ人はなかなかいないんじゃないでしょうか。

純粋な悪に対しての混じりっけなしの正義(信頼と正しさ)。

敵が改心して仲間になる胸熱な展開。

 

当然のことながら、作品全体を通じたギャグも冴え渡っているので、緩急の使い方が素晴らしい。
結果、ギャグの中で突如始まる、少年心をくすぐる熱い展開が引き立ちます。

 

ロゥダーも美形敵キャラからの味方化で良かった。
5巻で打ち切りになってなかったらもっと活躍していた、葛藤の中で戦っていたキャラクタになったはず。

 

集団戦を描く力が素晴らしい

普通、集団戦は漫画ではあまり描かれません。
トーナメント方式にしたり、「こいつはオレに任せろ」とか言って謎の1対1が始まるのが常。

しかしガッシュでも、ベクターボールでも雷句さんは集団での戦いをきっちり描いています。
これは完全に才能だよなあ、と思います。

 

ガッシュ・ベルと高嶺清麿のようなペアが、ヴェクターと米炊おかかでした。
ほぼキャラクタも似ていて、主人公のおかかは司令塔的な存在です。
頭を使って敵を倒す感じ。

 

おかかは、清麿と違って、クラスに馴染めていない過去があるわけではないです。
そのため、仲間を率いて戦うシーンにグッとは来ません。
ただ、3Dプリンタ能力を使って、自分の好きなように道具を作り出し戦うところが面白いです。

 

あと、弱いキャラクタも、弱いながらも自分の個性を発揮して戦う姿は見ていて痛快です。これはガッシュの時代から一緒ですね。

横道にそれますが、ガッシュは単純に能力物漫画として優れているというよりは「集団戦」的な楽しみがマッチしたのかもしれません。
皆が戦士と武道家みたいな攻撃系の職業ではないのが特徴的でしたね。
ドラクエのパーティーのように、僧侶も魔法使いもいるし、遊び人(キャンチョメ)もいるという。

 

VECTOR BALLのひどい・つまらないところ

ベクターボールの残念なところは正直ありましたね。
これのせいで、人気がいまいち出なかったんじゃないかとも…。

もうはっきりしてますね。

「ブス」をネタにしすぎ…

 

ブスネタはひどい・つまらないところ

ブスネタって、小学生の男子には笑えるのかもしれませんが、女性読者は完全に置いてきぼりでしょう。
大人の男性からしてもイマイチ笑いづらいです。
(いや、ギャグ自体は面白いんですけどね…)

 

主人公含めたキャラクタ達が「ブス」をバカにして良い正当な理由やトラウマがあるのならまだ読者も納得できますが、そういうの無さそうですからね。。。
※例えば、主人公も昔は容姿で虐められていて、その反動で人のことを馬鹿にする。しかし物語後半で改心する…みたいな

 

マガジンという少年漫画雑誌で連載していなかったら、もう少し受け入れられたかもしれません。
ただ、特定キャラを笑うのではなく、「容姿」そのものを笑い続ける方向は、いずれにせよ厳しかったのではないかなーと思います。
※ハゲキャラをギャグ漫画で扱うときも、「ハゲている人全員」を笑う漫画があったらおそらく不快だと思う

 

カニ味とブス三闘神(打ち切りの最終回)

最後は魑魅くんがパワーアップする回で終わりました。カニ味とブス三闘神で有名です。
本当はこの回で終わる予定ではなかったらしいので、本当の意味での打ち切りでしたね…

 

おまけ VECTOR BALL打ち切りについての雷句誠先生の発言

VECTOR BALL作者の雷句誠さんが、ブログで発言していました。

絶望感、無力感と書くと、オーバーかもしれませんが、週刊連載という厳しいスケジュールで、1ヶ月かけて準備したものが全く自分では書くことができないお話というのは、本当に絶望しかありません。もう出口が何もないのです。

それで・・・突然で申し訳ありませんが、終了をお願いいたします。と、伝えたのです。

すみません、打ち切りなら打ち切りなりの数話でまとめるラストも、全く考えることができず、終わりをお願いしました。

雷句誠の今日このごろ。 : VECTOR BALL連載終了について・・・

 

ちなみに最終話では

今回をもって『ベクターボール』は第1部完結です。楽しみにしてくださっていた読者の皆様、応援ありがとうございました。

と書かれていました。

これはあれですね、マンガをたくさん読んでいる方には常識ですが、第2部は絶対にないパターンですね。

 

クリエイターの課題は「好きなものを描きつつ売る」

好きなものを描きつつ、売るというのはクリエイターにとって、常に課題です。

特にマンガという大衆娯楽の場合は、多くの人に消費される必要がありますからね。

※最近はネットがあるので、著者への投げ銭などもできるかもしれませんけど

 

この辺の話は、ジャンルが違いますが、サカナクションというバンドの山口一郎さんもよく考えていました。

山口:僕、“ライスワーク”と“ライフワーク”って言い方をよくするけど、本広監督も仕事として楽しませるものを作るっていうことと、自分のライフワークとして好きなものを作るっていう、その二つの掛け合わせで生じる揺れってあるじゃないですか。

好きなものを作る(ライフワーク)と、売れるものを作る(ライスワーク)の間で、バランスをとるのが大事とも言っていました。

山口:僕は、どんなものでも「バランスを取る」作業の取り方に魅力を感じていて。本広監督ともよくそういう話をします。映画もそうですけど、音楽も、大衆に届けるためにはやっぱりそれなりにバランスを取る工夫が必要じゃないですか。

 

雷句誠さんの場合、前作の「金色のガッシュ!!」が大ヒットしたので、その分のプレッシャー(売上プレッシャー)もあったのだと思います。
しっかり休んで、また好きなように(ライフワークに近い形で)次回作を描いてほしいですね。